靴に当たる鍵

嫌な予感がする。


またスリッパが残った。
しかもまた白い。
白が趣味かと言われればまぁその通りだが、
今回は持参品なので自分のテイストというわけではない。
(何を弁解したいのかはわからん)

思わず2年ぶりにタバコを喫ってしまった。
頭はグラグラ痛むは、夜寝る時は気持ち悪いは、
うまく眠りに滑り込めないは、などと散々だったけど、
暗くなったベランダで、ぼんやりと煙と過ごす時間は偽りなくいい。
椅子を新調しようかとさえ本気で思う。

一緒にいた人がケツメイシのさくらを流したものだから、
春に死んだ友人を思い出した。
12階のベランダは気持ちよかったな、おい。
どうしてる。
お父さんが結婚だぞ。おーい。

車の行き交う音が高く響く。
住宅街の7階のベランダは静かだった。
空気の澄んだ冬の日は、駅の向こうの明治製菓の工場から、
チョコレートの匂いが流れてくる。
ぼくの町はそういう町だった。
もうない。

ビートルズのイン・マイ・ライフが音もなく流れてくる。
歌詞の “In my life I love you more” を、そこしか聞き取れないものだから、
「同じ暮らしの中でこそぼくはますます君を愛していくだろう」、
という字面通りの意味だと思っていたし、
それは素敵なことだと思ったものだから、
12歳くらいの頃からずっと、まったくそうだと信じて疑わなかった。


明かりがつかないままの玄関で、
ぼくは足もとの鍵を拾い上げる。
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by fdvegi | 2005-11-10 00:30 | 京都在住 | Comments(0)
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