行方不明になっていた友人が死んで見つかった。
ガピガピになったハンカチと、むくんでどろんとなったまぶたがリアルだった。 こんなにリアルな泣き方をしたことはなかったので、どう対処していいのか皆目わからず、別の友人に電話して、氷水のタオルを用意するよう教えてもらった。 公務員受験の予備校時代、それは知らない人には想像しがたい時間なんだけど、その間ずっと支え合い、励まし合った最愛の友人だった。 彼を美しく送ってやりたいと思った。 人生をかけた大切なテストの最中、緊張のあまりにうんこをもらした彼は、最後の最後のその姿でも、やはりうんこから何からダダもらしにもらしていたはずで、そういうありえない話をネタにする時、彼は徹底的に汚れることを好んでいたし、ぼくらは本当はそうでもない高貴な生き物のふりをして、彼を徹底的にいじめる。 ぼくは彼が好きだった。 花の中に埋もれていく彼が愛しかった。触れたくて仕方がなくなってきて、我慢ができずに、花を置いたその手でほほに触れた。嘘みたいに彼だった。それはまさしく友人で、拍子抜けするほど確かな手ごたえに愛しさがまたこみ上げた。愛しくて愛しくて手放せなかった。 行くなよ。お前。行くなよ。 胸の中で言えば言うほど、きつかった。 通夜では気丈だった母親がむせび泣いていた。彼女は24才の末息子を失った。 棺が閉められ、親族に担がれ、車に積み込まれた。 まーくん、みんなに運んでもらって、お前、よかったな。頑張れ。 人に触れ、触れられるっていうのはやっぱりよくて、後になればなるほど、あの時彼に触れてよかったな、とぼくは思っている。 帰り道、通夜の朝から続く背中の痛みを治してもらいに接骨院に行った。うつ伏せになって揉んでもらっている間、おっさんの手でもないよりはいい、と思った。愛しい彼女に会えない今、それ以上の慰めはないように思われた。 言い古された話だが、手を当てるというのはそういうことで、手をのばしあえば届くということに、一つリアルな肉がついたと思う。 彼はにもはやその言葉を実行することはできないが、しかし愛する友人が死んでぼくの言葉になった、という理解は楽しい。 ぼくらはこの先、彼を実行していくことになる。 ありえない馬鹿をするくせに変にかたいところがあった彼は、最後の期間、おそらく追い詰められているという理由で、逆に誰にも手を伸ばせなかったのだと思う。彼を知るぼくらは全員、何となくそんな想像がついて、だからこそこれから手をのばしあっていこうと約束した。 彼を愛するみんなが、彼を行う。 愉快だ。
by fdvegi
| 2005-04-27 00:30
| 京都在住
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